時間が来ても遊びをやめない、順番が来ても交代しない、始めたことをやめられない・・・。
これらは、今やっている活動を続けることにこだわって、「やめられない」という特徴に見られる代表的な一例です。
私も、ASD息子の「やめられない」行動の対処法に毎日苦悩しています。
今回は、自閉症スペクトラム障害の「こだわり行動」のうち、「やめない・やめれらない」特徴に絞り、息子のエピソードをご紹介しながら考えます。
なぜやめられない?原因を探るよりASDこだわり行動の特徴!と割り切る
私が愛読している本に、白石雅一先生・著「自閉症スペクトラムとこだわり行動への対処法」という本があります。
この本の中で、ASDのこだわり行動には大きな3つの特徴があり、それが「変えない」「やめない」「始めない」ことだと定義されています。
そのうち「やめない」特徴について、息子の行動に当てはめて例を挙げると、
- 図鑑を読んだり、お絵かきをしたり、気に入った遊びは、時間が過ぎてもやめない
- 同じ動画や気に入ったシーンを繰り返し見続ける
- 戦いごっこを始めると「もう一回」と何度も何度もしつこく要求して、やめさせてくれない
などです。
息子が小さい頃は、公園で遊び出すと、いつまでたっても帰れませんでした。
他の子は親が呼べばすぐ来るし、「帰るよ」と背を向ければ親の後を付いていくのに、うちの子は呼んでも癇癪を起こすだけ。どうして来てくれないんだろう?
他の子は、「帰りたくない」と愚図っても、親が「もう終わりだ」とちょっと叱れば、愚図りながらも帰路につく。うちの子はなぜ、いつまでも帰ってくれないんだろう?
その度に、なぜ?どうして?と悩んだものです。
今は、そんな理由を問い詰めるようなことはしません。
自閉症スペクトラム障害の「こだわり行動」の代表的な特徴だと分かったからです。
「やめない」「やめられない」のは、仕方ない。ASDの特徴なんだから!と思うようになりました。
特徴なんだと割り切ることで、原因を突き止めようとする労力は不要になりました。
「これは特徴なんだ、仕方ないんだ。」
と割り切ると、一旦少し楽になりました。
やめさせるための工夫や対処法に、自分の労力を費やすことができます。
チラシを切り抜く、最後まで!途中で”やめない”、”止められない”…事例。
息子の殆どの活動が、始まったらスムーズには「やめられない」から、事例は選びきれないほどあります。
膨大な「やめられなかった活動」のうち、その活動の痕跡が、写真に残っているものを事例として挙げることにします。
ハサミを使うことが好きな息子は、たびたび、チラシを切り取ります。
私の記憶では、シェア畑を始めた頃、「野菜」の姿で頭がいっぱいの時に、野菜を絵に描いて切り取ったのが始まりです。
わざわざ絵に描いて切り抜かなくても、生協の宅配のチラシに載っている「野菜」の写真を切り抜けば、たくさん作品ができると思い、良かれと思ってチラシを差し出しました。
それ以来、「チラシを切り抜く」ことを覚えた息子は、気に入った図柄や写真があると、チラシを切り抜く活動をし始めました。
一見、微笑ましいイメージを抱くかもしれませんが、切り抜き始めたら、もう覚悟。
・・・どうやってやめさせよう?
終わりのタイミングを示し、やめさせるのが大変です。
気に入ったことや没頭したことは、自分で区切りを付けて「やめる」ということができないのです。それが”特徴”なのだから!
終わりにする理由がある時は、”おしまいの時間”や”次の行動”を視覚にアピールして、なんとか「やめさせる」工夫をします。
でも、切り抜き始める前に「おしまい」の約束をせず、切り抜き活動を始めてしまったら、もう途中でやめさせることは困難です。
息子本人すら、途中で疲れて、大きな深呼吸をしているのに、やめません。
と気遣っても、やめません。
次の予定があって急いでいるわけでもなく、事前に「おしまいの時間」を決めなかった時の『チラシ切り抜き作業』は、チラシが”抜け殻”になるまで続きました。
「やめない」すごい集中力!やめなければ達成感は大きく、本人は大満足
切り抜く場所がなくなったチラシは、まるで抜け殻です。
全てを切り抜き終わった息子もまた、疲れ切って、”抜け殻”のようにソファに寝転びました。
でも、本人は、大満足なのです。
いつもいつも、「もうおしまい」「もう終わり」と煽られる機会が多く、「やめなければならない」状況に追い込まれ、どうにもならずに癇癪に繋がってしまう。
でも、「やめろ」と言われず、ずっと没頭できて、やりたい事をやりたいだけ、最後までやり遂げた時は、すごい達成感が大きいようです。
どうしても時間に縛られて行動しなければいけない現代社会。満足感や達成感を味わせてあげたいけど、難しいです。
一歩間違えば癇癪!の中…こだわり行動の付き合い方が重要
さて、最後まで”抜け殻”になるまで、チラシを切り抜きました。
チラシに掲載されていたキャラクター達が、息子に切り抜かれ、机の上に並べられました。
真ん中のキャラクターは、セロハンテープを使って修理されていることにお気付きでしょうか?
ハサミでチョキチョキと、キャラクターを切り抜く時、四角いフォルムに切り抜くのは上手くできました。
しかし、息子にとって、キャラクターの形に沿って切り抜くのは、少し難しかった。途中で、キャラクターの足を切ってしまった!
大癇癪だったのは、言うまでもありません。
ASDの子には、物事の難易度や自分のレベルに関係なく、完璧主義的なところがあるのでしょうか。
手伝われるのを嫌うくせに、明らかに難しい部分を自分でやって、失敗すると癇癪。世話がやけます。
癇癪のスイッチが入るところから癇癪に至った時まで付き合いながら、やり遂げた「こだわり行動」でした。
冒頭で登場(紹介)した本 「自閉症スペクトラムとこだわり行動への対処法」は、 ASDのこだわり行動に対して、”うまく付き合って導く”というマネジメントが大切だと教えてくれます。
「やめない」から怒られたり、「やめられない」ことで欠点のように捉えられてしまう、この”こだわり行動”は、「玄人」とか「職人」として捉えられる所に導くことができれば、マイナス面ではなくプラス面に変わります。
そのためには、うまく付き合いながら、伸ばせるところは伸ばさないと…。
分かっているけど、難しい。
そんな気持ちで、息子の切り抜きコレクションを撮影したのでした。