ナガミヒナゲシという花をご存知ですか?
ASD(自閉症スペクトラム)の特性がある息子は、幼い頃からとてもこだわりが強い子で、いつも何かに固執しては、日常生活に支障が出るくらいの執着ぶりでした。
3歳前後で「強いこだわり」を見せていたのは、ナガミヒナゲシという花です。
この時の”こだわりぶり”と対処方法をご紹介します。
珍しくないのに「ケシ!ケシ!」と連呼して固執した
私自身が、発達障害や強いこだわりの対処法について理解していなかった時期と重なることもあり、今回の「ナガミヒナゲシ」へのこだわりについては、当時すごく悩みました。
息子は2歳半の時点で、雑草をいじったり観察したり、身近な植物観察が好きでした。
徒歩での移動や散歩中、ジッーと眺めては納得したように何かつぶやいて、次の植物観察に移る…という行動パターン。その場を離れるのが大変で、近場に出掛けるにも時間がかかりました。
が、とりわけ「ナガミヒナゲシ」に至っては、すごいこだわり様だったのです。
ナガミヒナゲシは、春になるとその辺に咲き誇る雑草の類です。オレンジ色のポピーに似た感じのキレイな花を咲かせます。
珍しくもなく、どこにでも群生している雑草の花です。それなのに、息子はこの「ナガミヒナゲシ」に対して異様に固執していました。
私はこの花を「ケシの花」と呼んでいて、当時2歳の息子にも「ケシの花」と教えました。
この花を見る度に、息子は「ケシ!ケシ!ケシの花だよ!」と連呼し、私が近くに寄って一緒に見るまでその場を離れず、指をさして「ケシ!ケシ!ケシ!」と叫んでいました。
車の中からでも、車道脇にナガミヒナゲシが見えただけで、「ケシ!ケシ!ケシ!」と連呼。
確かに、オレンジ色で可憐でキレイな花です。でもなぜ、このナガミヒナゲシに固執するんだろう?
タンポポだって、ツツジだって、サクラだって、いいじゃない。なぜこの「ケシの花」なのか?
その執着ぶりが凄いので、本気で真面目に疑問に思い、原因を探ろうと必死でした。
こだわりの始まりは「絶対に触っちゃダメ!」と脅した
真面目に悩んで、息子がナガミヒナゲシにこだわる理由を考え続けていたので、暫くして分かったことがありました。
夫が息子に対して、
「ケシの花は、絶対に触ったらダメ!」
「もしも触ったら、すぐ手を洗わなくちゃダメ!」
「触ったら、触った指がかぶれて、痛くなる。だから絶対に触っちゃダメ!」
…と言う具合で、「ナガミヒナゲシの花には絶対に触ってはいけない」と教えて(≒脅して)いたのです。
確かに、ケシ科の植物には、強い毒性がある種や、無許可で栽培するだけで法律違反&警察に捕まる…という種があると聞いたことがあります。
気になって調べたら、ナガミヒナゲシは野草化しているケシ科の植物で、法的に問題のあるアヘン成分は含んでいないが、アルカロイド性の有害物質は含まれており、場合によっては手がかぶれるらしいと分かりました。
ナガミヒナゲシの毒性有無はともかく、夫が脅した?内容も強ち嘘ではないと分かったものの…。
息子の「ケシの花」のこだわりは、
・触っちゃダメだと強く禁止された
・綺麗だと思った花を否定された
ということが始まり(きっかけ)だと思いました。
禁止や否定で「こだわり」が悪化したと分かった理由
ナガミヒナゲシの接触を禁止したり、いいなと思う気持ちを否定したりしたことが、なぜ「こだわり」に繋がったと気が付いたのか?
それは、息子が「ケシ!ケシ!ケシ!見て!お母さん!」と私を呼んで、私が近づいた時に、
「触っちゃダメ!ダメ!ダメ!ダメ!あ~っっ!!危な!!」と叫び、接触を禁止するその言動が挙動不審だったからです。
息子自身も、花を触ろうとして指を近づけるも、ギリギリの所で触らずに指をひっこめる、という仕草を繰り返していました。
自分で触ろうとしているのに、触る直前で手を止めて「ダメダメダメダメ!あ~~あぶな!」と叫んでは、それを繰り返す。
「触っちゃダメダメ」言われたから、触りたいけど触れない、この気持ちのせいで余計に気になって「こだわり」になっているのではないか!?
と思いました。
夫が「ダメダメ禁止文」で教え続けた(脅した)結果、息子のナガミヒナゲシに対する想いを強めてしまったのではないか。
ダメダメ言うから、余計に「触ってみたい」「触ったらどうなるんだろう」という興味を助長してしまった(悪化させてしまった)のではないか。
そんな興味がこだわり化して、ナガミヒナゲシに固執するようになってしまったのではないか。
と確信に近づきました。
ナガミヒナゲシこだわりの軽減法:「触っていいよ」肯定文で促す
息子のナガミヒナゲシへのこだわりは、知識として教えるだけで良いものを、夫が絶対に触れてはいけない危険物のように言ったから余計気になって固執化したんだと思いました。
夫には、「触っちゃダメだダメだと”ダメダメ”言うから、余計に固執してヒナゲシにこだわってるじゃん!!」とハッキリ言いました。
「え、マジ?」
この父親。普段、ナガミヒナゲシに固執している息子の様子を見て、「ケシケシ病」と呼んでいたんです。
そんな呼び方も失礼で腹が立ちますが、そもそも原因が自分にあると知って、少しだけ反省した様子でした。
夫は息子に誤り頭をなでながら、ナガミヒナゲシに触っても大丈夫であること、触ったら手を洗うことを教えました。
私も、外で「ケシ!ケシ!ケシ!見て!」と連呼された時に、触っても大丈夫だと言い続けました。
ナガミヒナゲシこだわりの対処法:安心/安全/大丈夫を実際に見せる
最初は、口先で「大丈夫」だと何度言っても、息子は警戒して触りませんでした。
息子はナガミヒナゲシを綺麗だと思い、触ってみたいと思った時に「触っちゃダメだ」と強く否定され、触りたいけど触らなかった我慢が長く続きました。
急に「触っていいよ」と言われても、すぐには気持ちを切り替えることができません。
そんな息子の気持ちも分かったので、私が実際にナガミヒナゲシの花をツンツン触って、お手本を見せました。
「ほら。触っても大丈夫だよ」と何度も触る姿を見せると、息子も戸惑いながらナガミヒナゲシの花を突っつきました。
息子が突っついても触っても、平然とした態度で「大丈夫だよ」と伝えました。
触っても大丈夫だと優しく何度も言って、安心な雰囲気を醸し出しました。
ナガミヒナゲシのこだわり解決!
ナガミヒナゲシへのこだわり対処法を実践して約3年。
5歳になった息子は、相変わらず雑草の前で立ち止まり、雑草観察に時間をかけています。その場からすぐに立ち去れない姿は健在ですが…。
「ケシ!ケシ!ケシ!」と連呼し、異常なほどナガミヒナゲシの花に固執する姿は、もうありません。
春になると驚異の繁殖力であちこちに咲き誇り、沿道に群を成すナガミヒナゲシ。
息子は、
「昨日の蕾が咲いている。」
「朝はくっついてた花びらが落ちている。」
「花びらが全部落ちちゃった」
:
と、気が向いた時に、花の状態を観察する程度。健全な雑草観察のレベルになりました。
あんなに(私が)悩んでいたのは嘘のように、ナガミヒナゲシへの”こだわり”は解決しました。
【こだわり行動】禁止や否定は解決どころか悪化する
息子が2~3歳の頃、私を悩ませた「ナガミヒナゲシこだわり行動」。
一番大きな教訓は、こだわりが強い子に対する「ダメ」「~してはいけない」という禁止文・否定文は、余計に強い印象を与えてしまい、「こだわり」が悪化する(助長されてしまう)ということです。
この教訓は、この後の私にとって、息子の特性と向き合うための大きな糧になりました。
いわゆる「発達障害」「発達凸凹」「ASD(自閉症スペクトラム)」の特性に向き合い、「強いこだわり」という特徴を理解するのに大いに役立つことになります。
白石先生の「自閉症スペクトラムとこだわり行動への対処法」は参考事例が詰まっています。読み返すごとに、その時の息子の年齢によって着目する視点が変わり、とてもためになる本です。