自閉症スペクトラム障害の息子にとっても、私にとっても、一大イベントの日がやってきました。
親と離れて、保育園に1泊する「お泊り保育」-。
成功の鍵は、事前準備と息子の大きな成長でした。
目次
「お泊り保育」の説明をいつからするか?準備の勝敗を分ける説明計画
息子は、警戒心が強く、これから何が起こるのか見通し不明な事に対しては、極度に不安がります。
不安が大きいと、大の苦手である「気持ちと行動の切り替え」を助長してしまいます。
そんな息子に対して、「お泊り保育」があること、「お泊まり保育」でやること、その全てを丁寧に事前説明する必要がありました。
難しいのは、説明のタイミング。
早過ぎても、変に想像して「行きたくない!」に繋がります。
遅すぎても、焦りが生じて、心配事が思い浮かぶ度にプチパニック。「嫌だ、行かない。行きたくない!」と叫ぶでしょう。
運動会や遠足などの年間行事とは、レベルが違います。
大変でも頑張れば、夕方になれば家に帰れる、時間が来ればお母さんが迎えにくる、夜は好きな図鑑やYoutubeが観られる、安心できるベッドで眠る…という、いつもの安心材料が効かない、一大イベントです。
- 「お泊り保育」があることは、ゆっくりと自覚させて、「不安だけど行きたい」という気持ちに持っていく必要がある。
- 「お泊り保育」でやることは、本人がその気になって「何をやるか知りたい」という気持ちの時に、視覚に訴えながら説明する必要がある。
と思いました。
準備は、「心の準備」と「実際の準備」の大きく2段階に分けることにしました。
タイミングも別々に。「心の準備」は数か月前から少しずつ、「実際の準備」はもっと直前になってから始めます。
私の説明によって、不安を軽減し「安心材料」にするためには、絵を描いて視覚でインプット、確実に「理解している」状態を作り出します。
そういう説明計画を立てました。
説明によって、不安よりも安心感を大きくするために、慎重になる必要もあります。
でも、事前説明が成功すれば、「お泊り保育」も半分以上が成功したのも同然です。
「心の準備」は2ケ月前から!私が心掛けたこと
お泊り保育への「心の準備」。
重要ポリシーとして、以下の3点を心掛けました。
- お泊り保育がある”事実”ははっきり伝えるが、「もうすぐ」「まだ先」という時期のニュアンスは、本人の受け入れ状態に合わせる。
- お泊り保育までに「出来るようになろう」とは決して言わない、煽らない。
- 結果的に”できた時”に褒め、後付けで「お泊り保育でも大丈夫」だと自信を付けてもらう。
お泊り保育まで、あと約2ヶ月前…と迫った頃から、強く意識しました。
「まだ先」「もうすぐ」を使い分ける
例えば、お泊り保育を嫌がっている様子の時は、「まだ先だから大丈夫だよ。」と軽く流しました。
「まだ先」だと言いつつも、”お泊り保育がある事実”は否定しませんでした。
反対に、お泊り保育で何をやるのか、本人も少しずつ分かって来て、少し楽しみにしている様子が伺えた時は、「もうすぐだね。スイカ割り楽しそう。羨ましいな。」と言いました。
「もうすぐ」だと言いながら、楽しそう&羨ましいという雰囲気を作りました。
息子は承認要求も強く?、羨ましがられると喜ぶ性格なので、「お泊り保育=楽しみ」という気持ちを助長させるために、たくさん羨ましがりました。
お泊り保育までに「〇〇ができるようになる」と焦らない、「できるようになろう」と絶対言わない
毎日の保育園を行きたがらない息子にとって、お泊り保育は、皆と一緒に参加し、皆と一緒に楽しんでもらうことが重要です。
お泊まり保育は、息子にとって単純に「楽しみ」であって欲しいです。
そのため、お泊り保育が、乗り越えるべきハードルや、努力の先にある山のように見えたらアウトです。
今できない事について、お泊り保育までに「できるようになる!」と焦ったら、親子して”お泊り保育”がハードルに見えてしまいます。
「お泊まり保育までに、できるようになろう」という言葉は、絶対に言わないように心がけました。
「一人でベッドに行けるようになろう。」
「言われなくても、歯磨きして顔を洗えないといけないね。」
「夜のおねしょを治さなといけないよ。」
…など、このタイミングで絶対に言ってはいけません。
さり気ない練習で「できた」自信を「お泊り保育」に関連付けた
その代わり、いつも通り過ごす中で、何気ない練習は繰り返しました。
そして、何かができるようになった時には、その自信を「お泊り保育」に関連付けました。
普段の「できた!」を、お泊り保育への自信に繋がるようにしました。
例えば、髪を洗い流す時、頭の上から流れ落ちるお湯が顔にかかると嫌がる場面。
いつもはなるべく顔に掛からないように事前回避するのですが、お泊まり保育に備えて練習しつつ、本人には「お泊り保育の練習だ」と分からないようにしました。

3まで数える間、目をつぶって、耳を抑えて、上から流れるお湯に耐えた後、約束通り、顔をぬぐってあげました。

簡単な目標を立てて、本人が「できた!」と嬉しそうな時に、「できた、すごい」「もうできるから大丈夫」ということを強調しました。

そして、どさくさに紛れて、「お泊り保育でも大丈夫」ということに関連付けました。
”心の準備”が進むと、本人が自覚!「お泊り保育」を受け止め始めた
お泊り保育の話題が出ると、「お泊り保育、やだー」と言っていた息子ですが、こうして2ヶ月ほど”さり気ない準備”をしていると、その反応に変化が起こりました。
「お泊り保育で、〇〇だったら、どうする?」
「お泊り保育、いつ?」
「お泊り保育で、寝る時、壁側かなぁ?」
と、”お泊り保育ありき”の心配をするようになったのです。
息子本人が、「お泊り保育」を受け止めていることが伝わってきました。
お泊り保育まで、1ヶ月を切っていました。
「お泊まり保育でやること」のイメージ化は2ステップ!「1つ1つのイベント」と「流れ」に分ける
お泊り保育が「あと2週間」にまで迫ると、保育園から「お泊まり保育のお知らせ」便りが配布されました。
5歳児クラス恒例行事、お泊まり保育までいよいよです。
「お泊まり保育のお知らせ」より
保育園で夕食を作ったり、花火をしたり、様々な経験を積みます。子どもたち同士で過ごす一日は、きっと絆を強くし、また1つ成長してくれるでしょう。
私は、この”お知らせ”に書かれている、1泊2日のスケジュールを把握しました。
※お泊まり保育に関わる持ち物のご準備は、お子様と一緒にお願いします。
「お泊まり保育のお知らせ」より
そして、自分の荷物に何が入っているのか?いつ使うのか?を把握させないといけないと思いました。
持ち物をリュックに入れる段階で、その持ち物を使うシチュエーションを視覚に訴えて、理解させなければいけません。
私の準備も、いよいよラストスパートです。
お泊まり保育で予定されている、1つ1つのイベントは、1つ1つどんなものなのか説明しました。
例えば「花火」は去年の思い出を引き合いに説明し、「スイカ割り」はボールを使って、ジェスチャーで説明しました。
割れると思っていたスイカが、もしも割れなかったら、癇癪を起こすだろうか?
いや、お友達の前なら拗ねる程度かもしれないけど、それによって当日の楽しい雰囲気が壊れても困ります。
「スイカが割れない場面」も、楽しいスイカ割りなのだと、イメージさせておく必要があります。
スイカ(ボール)が割れなくて悔しがる、渾身の演技を息子に見せて、大笑いさせておきました。
こういう細かい「イベント毎の説明」とは別に、全体の流れ(スケジュール)は、改めて説明することにしました。
最後の不安をぬぐいとる!「夜のオムツ・おねしょ」のこと
お泊まり保育まで「あと2日」と迫った時、いよいよ絵に描いて「全体象」を説明するか!?というチャンスがありました。
でも、息子には「夜、お母さんと一緒に寝られない」「夜、おもらししたらどうしよう?」という不安が残っていました。
まだ早いか?
私は、担任の先生に「夜寝る時のオムツ」について確認しました。
- 夜は「オムツ」でOKであること
- 去年のお泊まり保育では、半分近く「オムツで寝る子」がいたこと
- 寝る時にはくオムツは、リュックに入れておく
- 朝起きた時、濡れたオムツは担任が処理する
ということが分かりました。

と、あえて先生の前で、私が息子に言うと、

と、先生からも息子に言ってくれました。
これで、一気に安心したようです。
心配していた「夜のオムツ」の件が、息子なりに解決したことで、「これなら夜、保育園で眠れる」と、自信が出てきたのでしょう。
「お母さんと一緒に寝られない」という最大の不安も、ある種の「諦め」に転じた感じでした。
お泊まり保育が楽しみになってきて、色々イメージできたことで、「お母さんと寝られない」大問題でさえ、「仕方がない」という感情に変わったようでした。
前日ギリギリ!全体の流れ(スケジュール)の説明とイメージ化!

私が、お泊まり保育を絵に描いて「視覚化」したのは、もう前日ギリギリでした。

そう言って、「お泊まり保育」の全体の流れ(スケジュール)を絵に描き、息子の視覚に訴えていきました。

夕方から皆でカレーを作って、カレーを食べる。
「花火」は手に持ってやる花火。お空にバーンってなる花火じゃないよ。

プールバックに、パジャマとタオルとオムツを入れて、シャワーに出発。
水着を着て、シャワーを上からかけるよ。プールじゃないから、水着の洋服(=ラッシュガードのこと)と帽子はかぶらない。
終わったら、オムツをはいて、パジャマを着る。
寝る前は、先生が絵本を読んでくれるから、楽しみだね。

朝は、体操した後に、スイカ割り。

朝ごはんは、おにぎり。
スイカ割りで使ったスイカが、デザートに出るよ。
朝ごはんが終わったら、お母さんがお迎えに来るからね。
難しいところは、ジェスチャー(というより演技に近い)で教えました。

息子は、全部把握していました。
「(シャワーで)なんで水着なの?」など、時々細かい質問をしてきたけど、お泊まり保育で何をするか、理解していました。
最後の「お母さんが迎えに来る」絵で、「あー♡」と言いながら指をさしていました。
最後にこれがあることで、安心できたようでした。
当日は一緒に「実際の準備」!泊まる前に見えた”息子の大きな成長”とは

お泊まり保育、当日の朝。
前日に一緒にイメージした「お泊まり保育の流れ」の絵と一緒に、持ち物を並べておきました。
荷物1つ1つ、「絵のどこで使うか?」クイズを出しながら、当たったら一緒にリュックとプールバックに入れていきました。

息子は、「ちょっと、楽しみ」と言いました。
私は、お泊り保育当日…
「やーだ、やーだ」と言って、お泊り保育を嫌がりながら保育園に向かう息子を想像していたんです。
「やーだ、やーだ」と行き渋りされた時に、いつもの「夕方に迎えに行くから、大丈夫だよ」と言えない今日は、何て答えようか?と考えていたんです。
それなのに、この時、息子は「ちょっと楽しみ」と言いました。
毎日毎日、保育園に行くのを嫌がり、いつも何とか言い聞かせて連れて行っている息子です。
お泊り保育の今日は、どんなに嫌がられるのだろう?何て言って励ませばいいのだろう?…と、私自身も分からず、不安でいっぱいでした。
だから、息子の「ちょっと楽しみ」発言には驚いて、涙をこらえるのに必死でした。
すごく成長した姿を目の前に、毎日の努力が報われた気がしました。
お泊りする前から、息子の大きな成長を感じました。

保育園に到着して、車から降りて玄関に向かう時、息子は「でも、ちょっとは嫌なんだよ。」と言いました。
でももう、息子の気持ちがよく分かりました。

色々な気持ちが渦巻いて、楽しみだけど複雑な気持ちなんだろうな、とすぐ分かりました。

それでも、私が複雑な気持ちを代弁すると、息子は「お母さんは分かってくれている」と思ってくれたようで、ため息をついていました。
癇癪ではなく”ため息をつく姿”がまた、成長を感じた一面でした。
いろいろな気持ちが混ざる感覚、複雑な気持ちという感覚が、少しずつ分かって来ているようです。
お迎えに行かない日、息子がいない自宅の夜…、とても不思議な1日です。
私は思いのほか、不安ではなく「きっと大丈夫」という気持ちでした。
「お泊り保育」の続編では、「クラス皆のおねしょ事情」「食物アレルギー対応」「お薬どうする?」について、まとめました。